ニュースの概要
米国のフットウェア関連イベントで、Aetrexの幹部らが3DスキャンとAIを使った靴選びの仕組みを語った。同社は世界で5,000万件を超える足型データを持つ。店頭のスキャナーで足の形を測り、独自ソフトのFitAIが靴側の形状データと照らし合わせる。そのうえで、ブランドやモデルごとに合うサイズを提案する。足の長さや幅だけでなく、左右の差や靴そのものの設計も判断材料にする点が特徴だ。靴は同じ表示サイズでも履き心地が大きく違う商品であり、その不確かさを数値で埋めようとする取り組みと言える。
引用元: Aetrex、3DスキャンとAIを組み合わせた靴選び支援を紹介(Yahoo Tech)
分析・見解
「26.5cm」という数字が当てにならない理由
靴のサイズ表示は、実は統一された物差しではない。同じ26.5cmでも、ブランドが違えば木型(=靴を成形するときの型)が違う。つま先の高さも、甲の厚みも、かかとの収まりも違う。さらにスニーカーとレザーシューズでは、同じブランドでも履き心地が変わる。
足のほうも一定ではない。多くの人は左右で長さや幅が少し違う。夕方になるとむくんで、朝より足が大きくなる。つまり、売り場で起きているのは「不確かな足」と「不確かな靴」の掛け合わせである。
足を測るだけでは足りず、靴も測っている
Aetrexの発想で興味深いのは、足のデータだけを集めていない点だ。靴の側も形状として扱い、両方を照合している。測定器メーカーの多くは足の計測で止まる。靴の内側の形まで押さえて初めて、「この人にはこのブランドのこのモデルが合う」と言える。
5,000万件という数字は、その照合の精度を支える土台になる。足型の分布が多ければ、珍しい形の足にも近い事例が見つかる。これは検索エンジンの仕組みに似ている。データが厚いほど、少数派の人にも的確な答えが返せる。
試着室の代わりではなく、店員の目の補助になる
ここで一つ冷静に考えたい。AIの推奨が当たっても、靴は最後に人が履いて確かめる商品である。足入れの感触、歩いたときの違和感、好みの締め付けは数値にしにくい。だからこの技術は、試着を無くすものではなく、試着の回数を減らすものと捉えるのが現実的だ。
熟練の店員は、足を見ただけで「幅広の方ですね」と見抜く。AIは、その経験を新人にも持たせる道具になる。人手不足の売り場で、経験の差を平らにする効果は大きい。
次の焦点は通販と、データの持ち方
店頭のスキャナーで得た足型を、オンラインのサイズ提案に使えるようになれば価値はさらに広がる。ネット通販の靴は返品が多い分野であり、サイズ違いが最大の原因とされる。ただし、足型は身体の情報であり、取り扱いには慎重さが要る。本人の同意、保存期間、ブランドへの提供範囲を明確にできるかが、普及の分かれ目になる。
ビジネスへの影響
返品とサイズ違い在庫の削減が最初の効果
靴の小売で痛いのは、返品の送料と、売れ残ったサイズの在庫だ。サイズ推奨の精度が上がれば、返品率は下がる。さらに、どのサイズがよく推奨されたかのデータは、仕入れの量を決める材料にもなる。
導入を検討する店舗は、まず現在の返品理由を集計するとよい。サイズ違いの比率が高いなら、効果の見込みが立てやすい。逆に、デザインの好みが主因なら、投資の優先順位は下がる。
靴以外の業種にも使える考え方
この仕組みの本質は、人の身体と商品の形を同じ基準で比べることにある。メガネ、スーツ、自転車、インソール、ヘルメットなど、フィット感が購買を左右する商品に応用できる。自社の商品で、サイズ表示と実際の着用感がずれている分野はないか、洗い出してみる価値がある。
導入前に決めておきたい三つのこと
一つ目は、測定データの扱いである。同意の取り方と保存期間を、運用開始前に文書で決める。二つ目は、スタッフの役割である。機械の推奨を鵜呑みにせず、試着で確かめて接客する流れを作る。三つ目は、効果の測り方だ。返品率、購入までの時間、客単価を導入前後で比べれば、投資判断がしやすくなる。小さく始めて数字で確かめる進め方が、結果的に安全である。
